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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)15041号 判決 1984年6月29日

原告

柴村一久

ほか一名

被告

中島誠一

主文

一  被告は、原告柴村一久に対し、金二九五万七二二五円及び内金二六九万七二二五円に対する昭和五七年八月一二日以降、内金二六万円に対する昭和五七年一二月一八日以降右各支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  被告は、原告柴村恵子に対し、金二八三万七九八五円及び内金二五七万七九八五円に対する昭和五七年八月一二日以降、内金二六万円に対する昭和五七年一二月一八日以降右各支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

三  原告らの、その余の各請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを五分し、その四を原告らの連帯負担とし、その余を被告の負担とする。

五  この判決中、主文第一、二項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の申立て

一  原告ら

「1 被告は、原告柴村一久に対し、金一四二四万六六八七円及び内金一三四九万六六八七円に対する昭和五七年八月一二日以降、内金七五万円に対する昭和五七年一二月一八日以降右各支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

2 被告は、原告柴村恵子に対し、金一三六二万四〇七七円及び内金一二八七万四〇七七円に対する昭和五七年八月一二日以降、内金七五万円に対する昭和五七年一二月一八日以降右各支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

3 訴訟費用は、被告の負担とする。」

との判決及び仮執行の宣言を求める。

二  被告

「原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は、原告らの負担とする。」との判決を求める。

第二請求の原因

一  交通事故の発生

1  日時 昭和五七年八月一一日午前三時三〇分ころ

2  場所 東京都東大和市狭山五―一六五〇―一先路上

3  加害車 被告運転に係る大型貨物自動車(多摩一一や八六二二)

4  被害車 訴外亡柴村謙二(以下「亡謙二」という。)運転に係る自動二輪車(多摩も五七〇七)

5  事故の態様 被告は、前記日時ごろ、積荷の積載量を三割以上も超えた積載超過の状態にある右加害車を運転し、新青梅街道を福生市方面から東村山市方面へ向け、時速約六〇キロメートル(制限速度時速五〇キロメートル)で走行し、前記場所(以下「本件事故現場」という。)手前付近にさしかかつた際、進路前方の交差点(以下「本件交差点」という。)の対面信号が赤色の停止信号を表示しているのにこれを無視し、漫然右速度のまま右交差点内に進入、直進したため、折から左方交差道路より右交差点内に進入してきた亡謙二運転の前記被害車を自車左前部に激突させ、よつて右亡謙二に対し、頭蓋底骨折、脳挫傷、右急性硬膜下血腫の傷害を負わせ、同人を昭和五七年八月一一日午前四時二六分、久米川病院において右傷害のため死亡させた。

二  責任原因

1  被告は、前記事故当時、加害車を自己のために運行の用に供していたものであり、自動車損害賠償保険法(以下「自賠法」という。)三条の規定に基づき、亡謙二及び原告らがそれぞれ被つた後記損害を賠償する責を負う。

2  被告は、前記事故の態様において述べたとおり、赤信号無視及び速度違反の重大な過失により、本件事故を惹起し、亡謙二及び原告らの権利を侵害して後記損害を被らせたものであるから、民法七〇九条の規定により、右損害を賠償する義務がある。

三  損害

1  亡謙二の逸失利益及び慰謝料

亡謙二は、前記事故のため死亡し、次の損害を被つた。

(一) 逸失利益 金三二九九万七九五〇円

亡謙二は、本件事故当時、中学校卒の有職者であつたから、昭和五七年度賃金センサス産業計・企業規模計・中学卒男子労働者の全年齢平均賃金を基礎とし、本年度までの右賃金上昇率を年率五パーセントとし、生活費控除割合を五〇パーセントとして、同人の逸失利益を計算すると、次のとおり金三二九九万七九五〇円となる。

(23万3200円×12+64万4500円)×1.05×(1-0.5)×18.2559=3299万7950円)

(二) 慰藉料

亡謙二の年齢、その将来性、本件事故の態様等諸般の事情を考えると亡謙二の精神的苦痛を慰藉すべき慰藉料としては、金一〇〇〇万円が相当である。

2  原告柴村一久(以下、「原告一久」という。)の文書料及び葬祭料

亡謙二の死亡につき、原告一久は、次の各損害を被つた。

(一) 文書料 金一九〇〇円

(二) 葬祭料 金一〇〇万円、墓石建立費・墓地購入費金二四〇万円、仏壇仏具購入費金二九万二〇〇〇円

3  遺族ら固有の慰藉料

(一) 原告柴村恵子は、亡謙二の実母であつて、亡謙二の死亡による固有の遺族慰藉料は金四〇〇万円が相当である。

(二) 原告一久は、亡謙二の養父であつて、亡謙二の死亡による固有の遺族慰藉料は、金一〇〇万円が相当である。

四  相続

亡謙二の被つた前記逸失利益及び慰藉料については、その法定相続人である原告ら両名及び訴外土屋金丸が遺産分割協議をしたうえ、訴外土屋金丸の相続分を零とし、原告ら両名を各二分の一宛として、これを相続した。

五  以上の結果、原告一久の被つた損害及び相続した損害賠償請求権の合計額は、次のとおり金二六一九万二八七五円、原告恵子のそれは、次のとおり金二五四九万八九七五円である。

(原告一久→(3299万7950円+1000万円)÷2+1900円+369万000円+100万円=2619万2875円)

(原告恵子→(3299万7950円+1000万円)÷2+400万円=2549万8975円)

六  弁護士費用

原告らは、被告が任意に支払をしないため、本訴の原告ら訴訟代理人に本件訴訟の提起追行を委任し、報酬として原告ら各自が金七五万円宛支払うことを約した。

七  過失相殺

以上の損害合計につき一〇パーセントを過失相殺により控除する。そうすると原告一久の残額は、金二四二四万八五八七円、原告恵子のそれは金二三六二万四〇七七円となる。

事故の態様に関する被告主張の事実中、亡謙二が、以前に東大和市の暴走族ブラツクエンペラーに所属していたことは認めるが、前記事故の当時は、右の暴走族から脱退していたものである。亡謙二が右事故直前のころ友人の自動二輪車である被害車に無免許でヘルメツトをかぶらず乗車して右事故に遭つたこと、右事故前に亡謙二が飲酒をしたことは認める。しかし、右飲酒量は極く少量であつたし、亡謙二は無免許ながら運転技能、技術の面では優れていた。すなわち飲酒量は、右事故の前日午後八時から午後一〇時にかけてビール中びん半分(約二五〇ミリリツトル)とウイスキーシングル水割一杯(ウイスキー約三〇ミリリツトル)及び右事故の当日午前二時から午前三時にかけてウイスキーシングル水割一杯(ウイスキー約三〇ミリリツトル)である。被害車が、事故現場で何らの停止措置をとることもなく、加害車と衝突したこと、加害車が、本件交差点に進入後、被害車の進行を発見して急ブレーキをかけたが間に合わなかつたことは認める。その余の事実を否認する。亡謙二が被害車を運転して本件交差点に進入した当時、その対面信号は黄色であり、かつ、衝突時にも黄色であつたが、被告は右交差点へ進行するに際して、対面信号が赤信号を示していたのにこれを無視したものである。また、亡謙二の交差点進入時における運転速度は、せいぜい時速二、三〇キロメートルにすぎなかつた。

八  損害のてん補

原告らは、これまで自賠責保険金(自動車損害賠償責任保険保険金)として金二〇〇〇万一九〇〇円を受領し、うち一〇〇〇万一九〇〇円を原告一久の被つた損害のてん補に、うち金一〇〇〇万円を原告恵子の被つた損害のてん補に充てた。

九  以上により、原告一久は、被告に対し、損害賠償として、金一四二四万八五八七円及び内弁護士費用金七五万円を除いた金一三四九万六六八七円に対する前記事故の翌日である昭和五七年八月一二日以降、内金七五万円に対する本件訴状が被告に送達された日の翌日である昭和五七年一二月一八日以降右各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、原告恵子は、被告に対し、損害賠償として、金一三六二万四〇七七円及び内弁護士費用金七五万円を除いた金一二八七万四〇七七円に対する前記事故の日の翌日である昭和五七年八月一二日以降、内金七五万円に対する本件訴状が被告に送達された日の翌日である昭和五七年一二月一八日以降右各支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三答弁及び被告の主張

一  請求の原因一交通事故の発生のうち1日時、2場所、3加害車、4被害車は認める。同5事故の態様は争う。

右事故の態様は次のとおりである。

亡謙二は、東大和市の暴走族ブラツクエンペラーに所属していたが、後記のとおり、仲間らと事故前三時間位の間にビール、ウイスキー等を大量に飲み、事故の血中アルコール濃度は第三度(深酔)の程度に達していた。更に同人は、右事故直前のころたまたま通りかかつた友人の自動二輪車である被害車に、無免許でヘルメツトをかぶらずに乗車し、事故現場まで制限速度が二〇キロメートルであるのに約八〇キロメートル前後の速度をもつて差しかかり、事故現場では、何らの停止措置をとることもなく、加害車と衝突右事故に遭つたものである。他方被告は、自重及び積載砂利合わせて約二〇トンの大型貨物自動車を運転し、事故現場直近の本件交差点に進入したが、その手前地点で、交差道路すなわち亡謙二の進行方向の信号が黄色に変わつたことを確認し、その後自己の進行方向の信号が青に変わつたものと思つて交差点内に進入し、被害車が突進してくるのを発見して急ブレーキをかけたが間に合わなかつたものである。

二  同二責任原因のうち被告に右の事故について過失があること及びその態様が原告ら主張のとおりであることを争う。その余の事実を認める。

三  同三損害のうち、亡謙二が右の事故のため死亡したこと、原告らが亡謙二の相続人であること及び損害のてん補に関する原告ら主張の事実を認める。その余の事実は不知。

亡謙二には、次の過失があつたから、前記事故の態様に照らし、被告の過失は二〇ないし四〇パーセント、亡謙二の過失は八〇ないし六〇パーセントとして過失相殺が行われるべきである。

すなわち、亡謙二は、事故前約三時間三〇分の間にビール一〇〇〇ミリリツトル、ウイスキー約三八〇ミリリツトルを飲み、事故時における血中アルコール濃度は、一リツトル中二・二〇七ミリグラムから一・八〇五ミリグラムと推定される第三度(深酔)の酩酊状態であつた。したがつて亡謙二は、オートバイを運転する行動制御能力、判断能力等が著しく減弱していたものである。また、亡謙二は、無免許で、過去に無免許運転で検挙されたこともあるから、もともとオートバイを運転するについて知識・技術等を欠いていたものである。次に亡謙二の進行方向の信号は、赤点滅の進めの状態から、黄色四秒、全赤二秒のサイクルで変わる。亡謙二は、進行方向の信号が赤の時に、全く減速措置をとらず、交差点内に突進したものである。更に被害車が加害車に衝突したため、加害車の左側部がかなりの損傷を受けたのであるから、亡謙二の前記事故時における速度は八〇キロメートル前後であつたものと推測されるのである。

第四証拠関係

記録中の書証目録及び証人等目録に各記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因中一交通事故の発生1日時、2場所、3加害車、4被害車の点は、当事者間に争いがない(右事故を以下「本件事故」という。)。

二  本件事故の態様等について検討する。

亡謙二が、以前に東大和市の暴走族ブラツクエンペラーに所属していたこと、亡謙二が本件事故直前のころ友人の自動二輪車である被害車に無免許でヘルメツトをかぶらず乗車して本件事故に遭つたこと、右事故前に亡謙二が飲酒をしたこと、被害車が事故現場で何らの停止措置をとることもなく、加害車と衝突したこと、加害車が本件交差点に進入後、被害車の進行を発見して急ブレーキをかけたが間に合わなかつたこと、は当事者間に争いがない。

右当事者間に争いのない事実といずれもその成立に争いのない甲第三号証、同第四号証、同第九号証の一から三まで同第一〇号証の一及び二、同第一二号証の一から二六まで、同第一五号証から同第一七号証まで、同第一八号証の一、乙第四号証、証人藤川英剛の証言、原告一久及び被告の各本人尋問の結果、弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実を認めることができる。

1  本件事故は、いわゆる新青梅街道とこれに交差する道路とが十字に交差する本件交差点内で発生した加害車(大型貨物自動車、いわゆるダンプカー)と自動二輪車(スズキ四〇〇C・C)との出合頭の衝突事故である。

2  本件交差点付近における加害車の進行した新青梅街道は、歩車道のある道路であり、歩道の幅員は一・一メートル、車道中央線としてチヤツターバーがある。車線は片側二車線、道路幅員は一三メートル、アスフアルト舗装で平坦、道路両側には工場等が建ち、夜間の照明としては街路灯の設備があり、本件交差点付近の本件事故時のころにおける前方の見とおしは良好であつたが、左方の見とおしは悪く、路面は乾燥していた。また、右道路は終日駐車禁止とされ、車両の走行速度は毎時五〇キロメートルに規制されていた。

3  被害車の進行した道路は、右新青梅街道と十字に交差する道路で、幅員は約四メートル強、車両の走行速度は毎時二〇キロメートルに規制され、二輪車以外の自動車は通行止めとされ、本件交差点への前方の見とおしは良好であつたが、右方の見とおしは不良であつた。なお、本件交差点には、電子計算制御方式の信号機があつた。

4  本件事故の日時ごろ、被告は加害車を運転し、積載量を二〇パーセント以上も超える程に五号砕石を満載して右の新青梅街道の進行方向右側車線上を福生市方面から東村山市方面へ向けて進行して制限時速五〇キロメートルを超える時速五五キロメートル以上の速度で本件交差点手前にさしかかつた。(被告が自重及び積載砂利合わせて約二〇トンの大型貨物車を運転して本件交差点に進入したことは被告の自陳するところである。)一方亡謙二は、少なくとも制限時速三〇キロメートルを超える速度で本件交差点にまつすぐ進入した(亡謙二の右交差点進入時における(連続速度が時速二、三〇キロメートルであつたことは、原告らの自陳するところである。)。被告は、右交差点手前約一〇二メートル強の位置で前方の対面信号は赤であることをみたが、そのまま進行した。次いで被告は、右交差点の約四六メートルの手前では、進行方向右手にあるすなわち交差道路前方の信号が赤点滅から黄に変つたことをみたが、自己の前方信号もすぐ青になるものと軽信して漫然と進み、前方信号が赤信号の状況下に本件交差点に進入した。交差道路の信号はなお黄色のままであつた。ところが、被告は、右交差点の約二〇メートル手前で、左からの交差道路上にライトの光を発見、続いて交差点直前で被害車に乗つた亡謙二が背を丸くして交差点に進入してくるのをみるや直ちにブレーキを踏んだが間に合わず、その位置附近路上に積荷の砕石を散乱させた。一方被害車は、交差点内において加害車の左側前車輪のうしろ泥よけ附近に衝突して転倒、新青梅街道上を加害車の進行方向左側の歩道縁の方へ向かい一・七メートル以上を滑走して停止した。加害車は再度ブレーキをかけてようやく停車したが、衝突後の道路上には、加害車のスリツプ痕がまず四条印され、続いてその前方に加害車による三条のスリツプ痕が更に残され、右二個所のスリツプ痕は、昭和五七年八月一一日午前三時五〇分に警察当局によつて行われた実況見分の際前後の全長一六・一五メートルと測定された。他方被害車のスリツプ痕は発見されなかつた。

5  右事故によつて、加害車の前輪スラツプは凹損し、左側防御装置外側がふくらんで大きく曲損し、タイヤには真新しいき裂痕が残つたほか、タイヤ付着の泥がとれ、左側荷台前下付着の泥も二〇センチメートル平方の大きさで脱落した。一方被害車は、前照灯破損、フロントウオーク二本曲損、前輪タイヤ曲損、ガソリンタンク凹損、座席脱落、使用不能に陥つた。

6  亡謙二は事故後直ちに久米川病院に運ばれ加療を受けたけれども、同日午前四時二六分、同病院において、右事故に基因する頭蓋底骨折、脳挫傷、急性硬膜下血腫のため死亡した。

7  亡謙二は、原告恵子を母、訴外土屋金丸を父として昭和四〇年四月二七日に生れた男子であつて、死亡当時原告一久の養子として、原告両名と同居して生活を共にし、株式会社日本システムサービスにいわゆる日給制により勤務していた。

8  亡謙二は、平素飲酒をたしなんだり、特に飲酒に強いというわけではないが、事故当日は、少なくとも午前二時から三時にかけてウイスキーシングルの水割り一杯を飲んだ後、間もなく被害車を運転して本件事故現場に至り、本件事故に遭つた(亡謙二が事故前に、前日午後八時から午後一〇時にかけてビール中びん半分(約二五〇ミリリツトル)とウイスキーシングル水割一杯(ウイスキー約三〇ミリリツトル、以下同じ)及び右事故の当日午前二時から三時にかけてウイスキーシングル水割一杯を飲んだことは、原告らの自陳するところである。)。

以上のとおり認められる。成立に争いのない乙第三号証、同第五号証の記載及び証人藤川英剛、同森田克頼の各証言、原告一久、同恵子、被告の各本人尋問の結果中、右認定に沿わない部分は、右認定の事実が認められることに対比して採用しない。他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

三  被告が本件事故当時加害車を自己のために運行の用に供していたものであつて、自賠法三条の規定に基づき、亡謙二及び原告らがそれぞれ被つた損害を賠償する責を負うことは当事者間に争いがない。(そこで民法七〇九条についての原告らの主張に対する判断を省略する。)

四  損害について判断する。

1  亡謙二の逸失利益金三一四二万六六一九円

亡謙二が死亡当時中学卒の独身男子有職者であり、年齢満一七歳であつたことは前段認定の事実及び成立に争いのない甲第四号証と原告一久本人尋問の結果によつてこれを認めることができ、右認定を左右すべき証拠はない。

したがつて、亡謙二の逸失利益は次の式により計算されるべきである。

(一)  〔(23万3200円×12)+64万4500円〕=344万2900円

(57年センサス産業計・企業規模計・学歴別(小・中学卒)男子労働者全年齢平均賃金)

(二)  生活費として五〇パーセント控除し、ライプニツツ係数を乗ずる。

344万2900円×(1-0.5)×18.2559=3142万6619円

(50年のライプニツツ係数)

2  亡謙二の慰藉料金八五〇万円

前段認定に係る事故の態様等の各事実関係その他本件にあらわれた諸般の事情を総合すると、亡謙二が本件事故によつて被つた精神的苦痛を慰藉するための慰藉料としては、金八五〇万円が相当である。

3  相続

以上によれば、亡謙二の損害額の合計は、金三九九二万六六一九円(後記過失相殺の点は一まずおき)となるところ、成立に争いのない甲第七号証と原告両名各本人尋問の結果を総合すると、原告両名は、被告に対する亡謙二の右損害賠償請求権をそれぞれ二分の一宛相続したことが認められ、右認定を左右すべき証拠はない。

右によれば、過失相殺前における原告両名の相続取得に係る損害賠償額は、各自金一九九六万三三〇九円となる。

4  原告一久の文書料金一九〇〇円

弁論の全趣旨によれば、原告一久は、本件事故について文書料として金一九〇〇円を要したものと認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

5  原告一久の葬祭費金七〇万円

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二二号証の一から四までと原告一久、同恵子各本人尋問の結果によれば、亡謙二の葬祭費として原告一久は、金一〇〇万円を大きく超える出費をしたことが認められ、右認定を左右すべき証拠はないが、そのうち本件事故と相当因果関係のある費用としては、金七〇万円をもつて相当とする。

6  原告一久固有の慰藉料金五〇万円

前段認定の本件事故の態様、亡謙二本人の慰藉料額、亡謙二と原告一久の身分関係その他本件にあらわれた諸般の事情を総合すると、原告一久本人自身が本件事故により被つた精神的苦痛を慰藉するためには、金五〇万円をもつて相当とする。

7  原告恵子固有の慰藉料金一〇〇万円

前段認定の本件事故の態様、亡謙二本人の慰藉料額、原告一久本人自身の慰藉料額、亡謙二と原告恵子の身分関係その他本件にあらわれた諸般の事情を総合すると、原告恵子本人自身が本件事故により被つた精神的苦痛を慰藉するためには、金一〇〇万円をもつて相当とする。

8  過失相殺 過失割合原告両名側四〇パーセント、被告側六〇パーセント

以上までに認定した事実関係のもとに、亡謙二における、無免許・ヘルメツト不着用・速度違反・運転直前の飲酒のほか公道かつ幹線といえる新青梅街道(証人藤川英剛、同森田克頼の各証言と原告一久本人尋問の結果によれば、亡謙二は新青梅街道と前記交差道路附近の道路事情をよく知つていたことが認められ、右認定を左右すべき証拠はない。)との交差道路から本件交差点に進入するに当たつて前方の信号が黄色であるのに左右の安全を確認した形跡の全くないこと等亡謙二に存した不注意の程度と被告に存した前段認定の事実関係に基づく過失ないしは不注意の程度を対比すると、原告両名の側の過失は四〇パーセント、被告側の過失は六〇パーセントとするのが相当である。

(なお、前段認定の事実関係と前記各証拠を総合してみると、亡謙二は、その運転直前にした飲酒の影響下にありつつ被害車を運転して本件事故に遭つたものと認められ、右認定を左右すべき証拠はない。そして飲酒の人体に及ぼす影響としての酔いの度合は、平素の飲酒習慣の有無・程度・飲酒時及びそれ以前の精神的・肉体的疲労の有無・程度、飲酒した時間の時間帯・所要時間、飲酒後の経過時間、飲酒時前後の自己の周囲の雰囲気等のほか消化器の具合・空腹の状況や肉体的・精神的一般健康状態の良否等々種々の因子によつて複雑に修飾されるものであつて、飲酒によつて摂取したアルコールの量と酔いの発現とは必ずしも併行しあるいは定型的経過をたどつて推移していくものではなく、飲酒の影響の発現の仕方にはかなりの個体差があるため、酔いの度合は、必ずしも飲酒者本人の自覚や他からの観察による右本人の一過的な状況態度のみによつて正確に覚知できるわけではないのである。したがつて、人が飲酒等によりアルコールを摂取しその影響下にあるという状態は、こと車両の運転に関する限り、多かれ少なかれ運転者に良くない影響を与えて交通の危険を惹起するおそれが強いものというべく、飲酒等によりアルコールを摂取しての影響下にある際の車両の運転は、厳につつしまれてしかるべきものである。そしてこの点は、被告が、本件において、大型貨物自動車であるいわゆるダンプカーを、砕石を満載して積載量超過の状態のもとに、深夜、幹線道路ともいえる道路上を、赤信号に従わず、制限速度を超過した速度で運転するような極めて無謀な運転を行つたのと対比しても、いわゆる過失相殺を考えるうえに十分斟酌されるべきものといわなければならない。)

以上までに説示したところによれば、右過失相殺の結果、原告一久の損害は金一二六九万九一二五円、原告恵子のそれは金一二五七万七九八五円となる。

9  損害のてん補 原告一久金一〇〇〇万一九〇〇円、原告恵子金一〇〇〇万円

原告一久につき金一〇〇〇万一九〇〇円、原告恵子につき金一〇〇〇万円がそれぞれいわゆる自賠責保険金からてん補されたことはその自陳するところである。

してみれば、右てん補後における原告一久の損害額は金二六九万七二二五円、原告恵子のそれは金二五七万七九八五円となる。

10  弁護士費用 原告一久につき金二六万円、原告恵子につき金二六万円

原告両名は、被告において本件事故の損害賠償を任意に支払わないため、原告訴訟代理人に対して本訴の提起追行を委任し、報酬の支払を約しているものであつて、このことは原告一久本人尋問の結果と弁論の全趣旨により明らかであり、右認定を左右すべき証拠はないが、本件事案の性質、事件の経過、認容額等諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係があるものとして被告に対して賠償を求めうる弁護士費用の額は、原告一久につき金二六万円、原告恵子につき金二六万円とするのが相当である。

11  合計 原告一久につき金二九五万七二二五円、原告恵子につき金二八三万七九八五円

以上を合計すると、原告一久については金二九五万七二二五円、原告恵子については金二八三万七九八五円となる。

五  結論

以上のとおりであるから、原告一久の被告に対する本訴請求は、損害賠償として金二九五万七二二五円及び内弁護士費用金二六万円を除いた金二六九万七二二五円に対する本件事故の日の翌日である昭和五七年八月一二日以降、内金二六万円に対する本件訴状が被告に送達された日の翌日であることが記録上明らかな昭和五七年一二月一八日以降それぞれ右支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから、右限度においてこれを正当として認容し、その余は理由がないからこれを失当として棄却し、原告恵子の被告に対する本訴請求は、損害賠償として金二八三万七九八五円及び内弁護士費用金二六万円を除いた金二五七万七九八五円に対する本件事故の日の翌日である昭和五七年八月一二日以降、内金二六万円に対する本件訴状が被告に送達された日の翌日であることが記録上明らかな昭和五七年一二月一八日以降それぞれ右支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから、右限度においてこれを正当として認容し、その余は理由がないからこれを失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 仙田富士夫)

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